同じ価格帯、似ている地域、同じアクセスの利便性でも、ホテルや旅館、泊まるお客さんによって満足度が大きく違ってくる。
それを身を以て体験した私「もち」が、今回は2つの某宿のサービスを自分の視点から比較して考察してみる。
温泉ホテルAのケース
まずは有名な温泉地にある某ホテル(ホテルAとする)で考えてみる。ホテルAはこの温泉地を代表する宿泊施設で、「じゃらん」などホテル検索サイトではまずひっかかる超大手だ。
このホテルを夫婦2人で利用したときに色々思うところがあったので、まずはそれを描き起こしてみる。
横軸に時系列順にサービスを並べ、縦軸に自分の抱いた感情をとった図をつくってみた。縦軸の上に行くほど「ええやん!」と思い、下に行くほど「激おこだお!」「(´・ω・`)ショボーン」などと思ったことを表す。よくいう「感情曲線」と呼ばれるものだ。
「予約」「問合せ」などがサービスで、これがホテルAと顧客である私たち夫婦との接点、つまり「タッチポイント」と呼ばれるものだ。それぞれのタッチポイントで、私たちが感じたこととそのときの感情を図にしてみると、面白いことが分かった。
- 予約
- 泉質が良いことで有名な温泉地を代表するホテルでゆっくりできるとあって、とても楽しみにしていた。テンションはほぼMAX。
- 問合せ
- 妻が妊娠していたので、ホテルに「妊婦が着れそうな衣服などありますか?」と質問してみた。もちろん、妊娠しているのはこちらの勝手なので、無ければ無いで自分たちで準備していくまで。
「そのような衣服の準備はしていない」とのホテル側の回答だったけど、やっぱりそうだよねーくらいで全然気にはならなかった。 - 逆に、「いいね」と思ったことも無かった。
- 妻が妊娠していたので、ホテルに「妊婦が着れそうな衣服などありますか?」と質問してみた。もちろん、妊娠しているのはこちらの勝手なので、無ければ無いで自分たちで準備していくまで。
- 移動~チェックイン
- ホテルのWebサイトには送迎バスに関する記載が一切なかったので、自分でホテル最寄りのバス停まで交通機関を確保して移動した。
- 最寄りのバス停からホテルまでは歩いて20分。温泉街を通過していく。しかも勾配のある上り坂。雨も降っていた。
- 温泉街を見て歩くのも楽しそうということで、のんびりと歩いてホテルに向かった。
- ホテルに着いたら、入り口の前にホテルのスタッフがいた。スタッフ曰く「言ってくれたらバス停まで迎えに行ったのに~」←軽くイラッときて、「なんにもご案内がなかったので知りませんでしたねー」と返事したけど、こちらが言ったことは理解してもらえたか微妙なくらい反応が薄い。
- 部屋
- 部屋に着いたら落ち着きたいものだけど、ここではそうはならなかった。
- 部屋備え付けの換気扇にびっしりとホコリが積もっているのが一目で分かった。自宅の換気扇を月に1回程度で掃除していてもここまで汚れてはいない。おそらく何年という単位で掃除していない。喘息が持病の自分としてはまったく落ち着かない。
- 洗面台の収納に、前の宿泊者が捨てたものと思われるティッシュのゴミがいくつか残っていた。気持ち悪い。この時点でフロントに電話して清掃の対応をしてもらうことにした。
- 清掃スタッフが来るまでの間、お茶でも飲んで落ち着こうと、お盆に伏せてある湯呑を表に返すと、湯呑の内側に緑茶の跡が付いていた。前の宿泊客が湯呑を使ってから明らかに洗っていない。気持ち悪い。この時点で、「このホテルは今回限り。二度と来ない。」ことが自分と妻の間で確定する。
- 温泉
- 素晴らしい硫黄泉。身体全体が芯まで温まった。
- 露天風呂が全然「露天」じゃない。四方を高い壁に囲まれ、天井もしっかり視界を塞いでおり、「外気がよく出入りする内風呂」と呼ぶべきものだった。外の景色をぼーっと眺めながら湯に浸かるのが好きな自分にとっては残念なポイント。
- 夕食
- バイキング形式の夕食。
- 品数が多く、全体的にとても美味しく満足。
- 地元食材を活かした料理が全体的に少なく、こうした料理がもっとあればなーとは思った。
- 貸切風呂
- 15人まで入れる貸切風呂を夫婦2人で堪能した。
- 1時間もないくらいの短い間だけど、とても落ち着ける空間で大満足。
- 朝食
- バイキング形式の朝食。
- そこそこ美味しいけど、ビジネスホテルのようなメニューが目立ち、もう少しリゾートホテルのようなこだわりが見たかった。
- チェックアウト~移動
- 最寄りのバス停まで送迎バスで送ってもらったので移動はとてもスムーズだった。
このホテルのケースでは、全体としてはほぼ感情曲線が真ん中以上をキープしており、貸切風呂ではほぼ最高に達したにも関わらず、「このホテルのリピートはないな」と内心で決めた結論は今でも変わっていない。部屋に案内された直後に受けたあまりの不衛生さに対する衝撃が大きかったことが原因だ。
今回の体験からこういうことが言えるだろう。
1つのタッチポイントで顧客が受けたマイナスの感情がとても大きいと、顧客が抱く「次の利用はないな」「もうここのサービスは受けない」などの判断を覆すことはとても難しい。
温泉ホテルBのケース
続いてホテルBのケースを考えてみる。
ホテルBはホテルAとは別の温泉地にあるけど、その温泉地を代表するくらい有名なホテルで、じゃらんなどの検索サイトでまず見つかる。
「オールインクルーシブ」が特徴のホテルで、一定の金額を支払った顧客はホテル側が決めた「ドリンク」「アイスキャンディ」「休憩スペース」「雑誌」「ボードゲーム」などのサービスを時間や回数を気にせず楽しむことができる。
感情曲線はこうなった。
- 予約
- 予約の電話で、ホテル側から交通手段について質問を受けた。答えると、かなり遠くの駅まで迎えに来てくれるバスを案内してくれた。移動手段を調べる手間と、移動そのものの手間がかなり省けて非常に助かる。
- 「オールインクルーシブ」というものをあまり利用したことがなく、Webサイトに簡単な説明はあるものの、正直なところその場の雰囲気などについてはっきりしたイメージがわいていなかった。
- 移動~チェックイン
- ホテルBからかなり離れた遠くの駅まで送迎バスで迎えに来てくれた。遠方から飛行機で旅行に来たので、移動の手間が省けてとても助かった。駅のロータリーでバスに乗ったら、後は何も考えずそのままホテルのフロントに降り立つことができた。楽。
- 部屋
- 全体的に清潔感があり、とても落ち着く良いお部屋だった。
- 温泉
- 川の源流に近い上流を眺めながらゆったりと浸かれる露天風呂が最高。
- 宿泊した部屋から7分程度歩かないと露天風呂までたどり着けないのは少し面倒。
- 夕食
- バイキング形式の夕食。
- とても美味。地元食材がふんだんに使われており、とても楽しい食事になった。
- 2泊したけど、1泊目と2泊目でメニューが全く同じだったのは少し残念。
- くつろぎスペース
- スペース全体がオールインクルーシブの範囲となっていた。
- スペース内にあるおやつ、ドリンク、雑誌などが楽しみ放題。時間帯が限定されるけどビール飲み放題もあって、ビール好きにはたまらないだろうな、と思った。
- オールインクルーシブで享受できるサービスが思っていたよりも小規模なもので少し寂しさを覚えた。
- 朝食
- 美味しい!
- チェックアウト~移動
- 往路と同じように、帰路も遠くの駅まで送ってくれてとても助かった。
「また来たいな」と思えるホテルだった。オールインクルーシブの規模が思っていたよりも小さく、「寂しいな」と思ったこともあるけどホテルAのように致命的な問題とまでは思わず、「次に来たら~~したい」という期待の方が大きい。
以上のように、全体的に感情曲線が高めになったホテルAとホテルBだけど、感情曲線の一部が極端に下がるか下がらないかで明暗が大きく分かれた。
ホテルAの部屋の不衛生な点がとても衝撃的で、ほぼその一点が「また来たい」「もう来ない」を分けたと言っていいだろう。他のタッチポイントではまずまず満足できていたのだ。
このことから、1つのマイナス、それも大きなマイナスがある場合にお客さんのリピート率や口コミに大きく影響することが想像できる。
リピートされなくなったらどうなるか、悪い口コミがネットに書き込まれたらどうなるか、想像力が無い自分でも経営に大ダメージとして返ってくることは理解できる。
顧客とのタッチポイントがいくつもある業界では特に、各タッチポイントでのお客さんへの接し方に深く注意を払い、お客さんの反応をつぶさに見ていく必要がある。
「臨時で商品を見せるだけだから」とか「昔からこうやってるから」とかではなく、お客さんが今どう思ったかを純粋にとらえて次に活かすことは想像以上にエネルギーの要ることかも知れない。
でもこれをやっていかないと、競争相手がいる業界では生きていけないな、と感じた。(粉みかん)