老後は本当に2000万円必要なのか検証してみた

結論まですっ飛ばしたい人はこちら

思ったこと

2019年6月3日に金融庁が公開した報告書の16ページ目には次のような一文がある。

不足額約5万円が毎月発生する場合には、20 年で約 1,300 万円、30 年で約 2,000 万円の取崩しが必要になる。

95歳まで人が生きると考えると,およそ2,000万円もの貯えが老後までに必要らしい。

本当か?

実際,どの程度のお金が必要になるのか,自分なりの計算からはじき出してみた。

金融庁は個人の家計状況からの予測で2,000万円と計算したらしい。

自分は,将来の人口予測をしてもっと大枠で捉えた計算をしてみたい。

データの取得先

政府統計のページに行くと人口推計や労働力に関するデータが色々手に入る。

使ったデータはこれら:

計算の方針

高齢者人口の将来予測と, 労働力人口の将来予測を行う。

これらを元に,労働者にかかる社会保険の負担がどのように推移していくのかを見る。

さらにこれを元に,老後までにいくらの貯えが必要なのかをはじき出してみる。

普通に日本人の人口データを表示してみた

少なくとも人口は増えてはいないな,ということは分かる。

途中,人口が不自然に増加したところがあるが,一応断っておくとこれは元データそのままだ。

普通出生率を計算し,予測してみた

普通出生率は,人口1000人当りの出生数のことで,次の式で計算できる。

$$普通出生率=1000\times\frac{出生数}{総人口} \left[‰\right]$$

単位はパーセントではなくパーミル

結果はこうなった。

減少傾向が見て取れる。

指数関数近似して今後を予測してみたらこうなった。

(2100年まで予測してみたけれど,さすがに精度悪そう。。)

年齢別の人口減少率を可視化してみた

年齢別に,1年間の内に何パーセントの人口が減ったのかを,2000~2015年のそれぞれの年について調べた。

各年の結果をグラフに重ね描きしたらこうなった。

普通出生率の予測と,人口減少率の予測を用いることで,日本人人口の予測ができる。

日本人人口を予測してみた

見事に右肩下がりの予測になった。

高齢化率を予測してみた

ここまで来ると気になるのは高齢化率。高齢化率は次の式で計算できる。

$$高齢化率\left[\%\right]=100\times\frac{65歳以上の人口}{総人口}$$

つまり,高齢化率が20%なら10人中2人は65歳以上ということになる。

予測はこうなった。

高齢化率予測の数値は,右軸を見てほしい。

2040年頃には3人に1人が高齢者になることが分かる。

労働力人口を予測してみた

2000~2015年の間は,労働できる年齢層(16~64歳)の内,およそ8割の人が実際に労働しているので,この割合で今後の労働力人口を予測してみた。

高齢者1人あたりを支える労働者の人数を予測してみた

労働力人口を高齢者人口で割ると,高齢者1人あたりを支える労働者の人数が割り出せる。

2000年時点で3人だったのが,2015年時点で1.9人に激減している。さらに,2050年時点で1.35人,2100年時点で1.07人にまで減る。

・・・でもこのデータはちょっと分かりにくい。逆数をとってみよう。

労働者1人あたりが支える高齢者の人数を予測してみた

逆数をとったらこんなデータが得られた。

こうすると少しリアルになる。

例えば2050年時点では0.74人という結果になっているが,これは

労働者1人の稼ぎが,労働者自身と,高齢者0.74人分の生活を支える費用に充てられる

ということだ。

もしもその労働者に扶養している子供が1人いたら,労働者の稼ぎは労働者自身と,子供と,(場合によっては配偶者と)高齢者0.74人分の生活を支えるために使われる。

なかなかきつい。

2人目の子供や,親への個人的な仕送りなど考える余裕はもはや無い。

そもそも,これだけ高齢者のために負担をしているのだから,さらに仕送りまですること自体に抵抗を覚える現役世代は今後どんどん増えていくだろう。

親は,子に個人的な世話をかけさせず,自分たちで老後生活を成り立たせていく必要がある。

子は子で自分たちの将来で手一杯だからだ。


以下では,この「労働者1人あたりが支える高齢者の人数」を現役世代の負担の指標として考えていく。

高齢者1人あたりに必要な年金支給額

2017年当時のデータを見ると,この年に高齢者に支払われた年金の総額は52兆403億円。この年の高齢者の人口予測は3328万1623人だから,1人あたりの年金支給額は

$$\frac{52兆403億円}{3328万1623人}=156万3634円/年$$

と計算できる。(ここに医療費が含まれない点は要注意だ)

以後,これを高齢者1人に必要な年金支給額と仮定して話を進めていく。

この支給額にはもちろん厚生年金保険も含まれるため,国民年金保険のみを支払ってきた高齢者とは支給額が大きく異なると思うが,ここでは平均値を出したいのですべてひっくるめて計算していく。

時代により物価が変わるから必要な支給額も変わるという話もあるが,それについては後ほど簡単にではあるが,考えてみる。

労働者は何人×何年分の高齢者のために負担することになるのか

現在\(n\)歳\(\left(0\leq n\leq 64\right)\)の労働者(あるいは将来の労働者)は,労働を通して結局何人×年分の年金を支払うことになるのか。

簡単のため,ある年の労働者の年金負担はそのままその年の老後世代に支給されるものと考える。

結果は次のようになった。

労働者は将来,何年分の年金をもらえることになるのか

内閣府の調査で,2060年までの平均寿命を推計したデータがある。

https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2012/zenbun/s1_1_1_02.html

このデータは次の減衰曲線で近似的に表現できる。

$$平均寿命\left(年\right)=-30e^{-0.0245年}+89.978$$

日本人の平均寿命がこの曲線に沿って推移すると仮定しよう。

このとき,2019年時点の年齢毎の大体の平均寿命は次のように計算できる。

平均寿命から65歳分を差し引くと,年金が支給される期間が計算できる。次のようになった。

これから分かることは,例えば,現在5歳の人には将来24年間に渡り年金が支給され,現在64歳の人には21年間に渡り支給される,ということだ。

年齢別に,年金の収支はどうなるのか

以上の計算から,年齢別の年金の収支が予測できる。

労働者が将来受け取るであろう年金の期間(年間)から,労働者が支払ってきた年金の人数×年間を引き算した結果,つまり「年金の収支」は次のようになった。

現在0歳の子は,将来5.2年間分の年金が払い損になり,現在44歳の人は将来2.8年間分の年金が払い得になるという結果になった。

ただし,この結果の見方には注意が必要だ。

この結果はあくまでも国民年金,厚生年金などを込みで平均値を計算したものであり,国民年金のみを支払ってきた人はパートで生活費を稼ぐ必要などもあり状況はより厳しくなると考えられる。

さらに,年金保険料は100%きっちり全労働者が支払うことは非現実的であるため,年金支給が計算通りに十分に行われるとは到底考えにくい。

現実は,より「払い損」傾向が強くなるだろう。

金額に換算してみる

この計算結果を金額に換算しよう。

高齢者1人あたりに必要な年金支給額は先ほどの計算より,156万3634円/年である。

これを,先ほどの年金の収支に掛け算してみると次のような計算結果になった。

2019年時点で0歳の子は,将来800万円以上の年金の払い損をすることになる。

2019年時点で44歳の人は,将来443万円程度の払い得をすることになる。

ただし,先ほど書いたように現実はより払い損の傾向が強まると考えられる。

人によっては2,000万円程度の払い損になることも考えられる。

結論

老後までに2,000万円が必要という話は本当か,という問いに対する結論は次のようになる。

現時点で年を重ねている人ほどその可能性は低い(むしろ払い得になる)が,若い人ほどその可能性は十分にある。

2,000万円が必要という話はウソという政府の話を鵜呑みにしてはいけないと感じた。

(付録1)現役世代の負担の相対量を予測してみた

先ほどの「高齢者の人数」を現役世代の負担を数値化したものと捉える。

2019年現在の現役世代の負担量を1とした場合に,今後の負担量がどの程度になるのかを計算してみた。

(付録2)人口ピラミッドを予測してみた

男女一緒のデータで計算したからピラミッドと呼んでよいのか分からないけれど,2100年までの人口ピラミッドを25年刻みで予測してみた。

2050年時点で,人口のピークが76歳。

その辺を歩いていてすれ違う人のうち,最も多い年齢層が70代になるという結果になった。

コメントする